くさかんむりの下に宣と書くと「萱」という漢字になります。
宣は「宣伝」などの単語で使うため馴染みがありますが、「萱」となるとよくわからない、という人も多いのではないでしょうか。
本稿では「萱」について詳しく解説していきます。
「萱」の基本情報
まずは「萱」の基本情報から紹介します。
漢字 | 萱 |
---|---|
部首 | 艸(くさかんむり) |
音読み | ケン・カン |
訓読み | わすれぐさ・かん |
「萱」は「わすれぐさ」
「萱」は萱草(わすれぐさ)という植物を意味する漢字です。
最古の漢字字典である説文には、「人をして憂へを忘れしむる艸(くさ)なり」と書かれています。
「わすれぐさ」は、詩経などにも登場する植物であり、この若芽を食べると酔っぱらったような感覚になり、憂いを忘れてしまう効果があるそうです。
昔、存在した?
ただし、現在一般的に「ワスレグサ」とされている花と同一であるかどうかは、微妙なところです。
ワスレグサの一種は、睡眠改善効果があるとされ、サプリメントなどになっているものの、酔っぱらったようになり、意識が薄らぎ、憂いを忘れさせるといった効果はありません。
漢字学の基本的なスタンスとしては、
・その若芽を食らえば、酔うて意識が薄らぐという(字統)
・之を植えて玩味すれば、よく憂いを忘れしめるという。一説に、その嫩苗(わかなえ)をを食えば昏然として酔うたようになるという(大漢和辞典)
といったように「正体がはっきりとしないが、そういう植物があったらしい」というスタンスで考えられています。
日本語用法「かや」
「萱」の読み方・用法のうち、特に知っておくべきは「かや」です。
これは、屋根を葺く茅(ちがや)や、笠(菅笠・すげかさ)や蓑(みの)などの材料となる菅(すげ)などのことです。
特に、茅の意味で使われることが多く、萱(茅)で葺いた屋根を萱葺屋根(茅葺屋根・かやぶきやね)といいます。
萱草とは
上記でも解説した通り、萱草(けんそう・わすれぐさ)とは「憂いを忘れることができるとされる植物」の名称です。
詩経には、
焉(いづ)くにか諼草(わすれぐさ)を得て、言(ここ)に之を背に植ゑん
(どこで萱草を手に入れて、庭に植えようか)
という歌があります。
この歌には、漢字の面白い知識が詰まっています。
背は「北」
まず「言に之を背に植ゑん」の箇所ですが、「背」とはいったいどこを意味するのでしょうか。
正解は「北の方角」です。
背は、「北+月」から成る漢字です。
「北」は、元々は人と人が背中を向け合って立っていることを表す象形文字です。
このため、北が「背中」「そむき合う」の意味で使われるようになりました。
後に、代表的な意味であるnorthは後から生まれたと考えられています。
萱堂
母親の居室のことを、古い言葉で「萱堂(けんどう)」といいます。
古代中国では主婦の部屋を北側に配置し、主婦の居室の庭には萱草を植える文化がありました。
このように紐解いていくと、
萱草は「背」に植える
→背とは北の方角である
→北の方角には母親の居室がある
→北に配置され、萱草を植える部屋であるから、母親の部屋を萱堂という
→転じて、母親のことを萱堂ということもある
といったように、多くの知識を関連付けて学ぶことができます。
まとめ
萱のように、マニアックな漢字であればあるほど、様々な知識が芋づる式に学べることが多いものです。
多くのことを関連付けて学ぶことを意識すれば、たった一文字の漢字をきっかけに、たくさんの漢字を学び、覚えることができます。
漢字学習の際には、ぜひ心がけてください。