皆さんは、にんべんに漢数字の十をつけた「什」という漢字を知っているでしょうか。すぐにわかる人は、中国の古代史が好きなのかもしれませんね。
「什」は、単体で使われることはほとんどありません。しかし、熟語としては今でもよく使われているため、ぜひ覚えておきたい漢字です。
本稿で、「什」の起源も含めて、詳しく見ていきましょう。
「什」の解説
まず、「什」の基本情報を確認しましょう。
漢字 | 什 |
---|---|
部首 | 人(にんべん) |
音読み | ジュウ |
訓読み | – |
「什」は、「じゅう」と読むこと、そして漢数字の「十」が含まれていることからもイメージできるように、数としての十を意味します。 漢数字の「十」と違うのは、「十」が数だけを意味するのに対し、「什」には「十等分」「十倍」といった意味があることです。ここから派生して、例えば10分の3を「什三」と書くこともできます。
「什」の漢字一文字で分数や倍数を意味するのですから、「十」よりも便利な漢字と言えます。 もっとも、「什」を便利に使えたのは昔の人だけで、「什」の漢字が一般的でなくなった今では、利便性はほとんどないでしょう。
「什」の成り立ち
さて、冒頭で「什」の漢字を知っている人は中国史が好きなのかも、と書きました。このように書いたのは、「什」という漢字は、古代中国の軍隊の単位として使われていたためです。
「什」は、「人+十」で成り立つ漢字です。つまり、十人の人が集まった状態を意味しており、古代中国の軍隊には十人一組の「什」という単位があったのです。
したがって、「什」には「(数としての)十」「十等分」「十倍」などの意味がありますが、もともとは集団の単位であり、主に人に対して使われていた漢字です。
ここから転じて、「人の集まり」や「人が集まること」といった意味で使われることもあります。実際に、中国の古典では「什」と書いて「あつまる」と読ませているケースがあります。
「伍」と「什」
これと似た漢字に、「伍」があります。「伍」の解釈は「什」とほぼ同じで、古代中国の軍隊における五人一組の単位を意味します。
「伍」は、現代の軍隊でも下士官の「伍長(ごちょう)」、整列した部隊を意味する「隊伍(たいご)」などで使われるため、「什」よりも馴染みがあるでしょう。
「伍」と合わせて考えると、「什」も分かりやすいと思います。
「什」の使用例
「什」の漢字は、今でもしばしば使われています。
もちろん、数に関する熟語や、「伍」のように軍隊関連の熟語に使われることはほとんどありませんが、日常的に使われる家具や道具、機材などを広く意味する「什器(じゅうき)」という熟語で使われます。
アルバイトを探しているときなどに、業務内容に「什器搬入」と書かれていることがあります。これは、例えば
- 新規に開業する店舗に、商品の陳列棚を運び込む
- オフィスにコピー機を運び込む
「什器」も元は軍隊用語
今でこそ、「什器」に軍隊関連のニュアンスはありません。しかし、「什器」も元々は軍隊用語であり、軍隊で使われていた様々な道具を意味する熟語でした。
軍隊の小さな単位である「什」で使われていた「器材」ですから、大がかりな器材ではなく、軍隊生活で使うありふれた器材を「什器」といっていました。
軍隊生活でのありふれた器材が、やがて日常生活でのありふれた器材を表すようになったのです。
「什器」は今でもごく普通に使われている漢字ですから、ぜひ読みと意味を覚えておきましょう。加えて、本稿で紹介した豆知識も知っておくと教養になります。