王室とは、一国の国王及び王族の総称です。2020年3月現在、世界全体における独立国家のレベルでは、同君連合による重複を除き、27の王室が存在しています(連邦制のアラブ首長国連邦を除きます。また、後述しますが、サモアは1つと数えます)。
国王たる地位は世襲により承継されるというイメージがあるという方も多いかもしれませんが、例外もあります。また、「国王」ではなく別の呼称が用いられることもあり、「天皇」「公」「大公」「首長」等の例があります。
国王が政治的な実権を持っているか否かは国家によって異なります。国王自らが政治的な権力を保有する専制君主制を取っている国もあれば、日本のように、国王(天皇)は政治的な権力を保有せず、象徴的な役割を担っているに過ぎないという場合もあります。現在では、日本を含めて立憲君主制を採用し、国王の権力に対して憲法による制限を加えるという体制が主流となっていますが、法制度及び実態の両側面から見て、実際の国王の権力がどの程度の大きさになっているのかは各国により様々です。
以下、各国の王室について解説します。
各国の王室について
アジアの王室
カンボジア
1993年のカンボジア王国の成立以来、国王を元首とする立憲君主制が続いています。
カンボジアは世界でも珍しい「選挙君主制」を採用しており、ノロドム家とシソワット家のいずれかから、両家とは関係のないメンバーから構成される王家評議会が国王を選出します。
カンボジア国王は政治的権力を持たず、国の象徴的な存在としての役割を果たしています。
現国王はノロドム・シハモニ(2004年より在位)です。
タイ
タイの現王朝であるチャクリー王朝は、1782年に始まりました。
王位継承者は国王の意志により決定されますが、現在の慣例では王族の中から選ばれることになっていますので、実質的には世襲制と言えます。
タイ国王は政治的実権を有しています。但し、タイは立憲君主制を採用しており、国王の権力に対しては憲法に基づく制限が加えられています。
現国王はラーマ10世(2016年より在位)です。
日本
日本の天皇家(皇室)も王室の一つに分類することができます。その起源は、伝承によると紀元前660年の神武天皇とされていますが、正確なところはわかっていません。しかし、相当に長い歴史と伝統を有することは疑いなく、そのため日本の皇室は世界で最も歴史の長い王室として語られることもあります。
皇位の継承は、「皇室典範」という法律に定められており、原則として世襲制が採用されています。
天皇の地位については日本国憲法において詳細に定められています。現在の天皇は政治的な権能を一切有さず、日本国の象徴としての役割を担っています。
現天皇は徳仁(なるひと)(2019年より在位)です。なお、現時点では「令和天皇」ではなく、「天皇陛下」「今上天皇」等と呼称するのが適切とされています。「令和天皇」の呼称は、令和の時代が終わった後に用いられることになります。
ブータン
ブータンでは、1907年にウゲン・ワンチュクが王位に就任して以来、ワンチュク家による王朝が現在まで継続しています。王位の継承は世襲により行われます。
長らくワンチュク家による専制が敷かれていましたが、現在では、ブータンは立憲君主制の国家であり、国王は依然として政治的権力を保持するものの、その権力には憲法による制限が加えられています。
現国王はジグミ・ケサル・ナムゲル・ワンチュク(2006年より在位)です。
ブルネイ・ダルサラーム
ブルネイ・ダルサラームでは、1405年以降同一の王朝(ブルネイ王朝)が継続しており、非常に王室の歴史が長い国の一つと言えます。
国王は自らをスルタンと称し、王位の継承は世襲にて行われます。
ブルネイ・ダルサラームは立憲君主制を採用しているものの、スルタンが事実上、政治・軍事上の全権を掌握する体制になっています。
現国王(スルタン)はハサナル・ボルキア(1967年より在位)です。
マレーシア
マレーシアは、小王国の連合により国家が成立したという歴史的な経緯があり、現在でも国王制を維持しています。
そのような経緯から、マレーシア国王は9つの州の各君主による互選で選出されることになっています(実際には、各州の持ち回りで選出されることが慣例となっています。)。また、国王には任期(5年)があるという点も特徴的です。
マレーシア国王は政治的権力を保持していますが、立憲君主制が採用されており、その権力の多くは内閣の助言に基づいて行使されます。
現国王はアブドゥラ(2019年より在位)です。
オマーン
オマーンでは、1749年以降、現在のサイード王朝による支配が継続しています。
王位の継承は原則として世襲により行われます。
現在でもサイード家による絶対君主制が維持され、全ての権限が国王に集中しています。一方で、1996年には実質的な憲法に相当する国家基本法が制定されたり、2011年には議会に立法権・監査権が付与されたりするなど、ある程度の権限移譲が行われています。
現国王はハイサム・ビン・ターリク・アール=サイード(2020年より在位)です。
カタール
カタールは、1825年にサーニー家の創始者サーニー・ビン・ムハンマドが、現在のカタールの首都であるドーハに当たるビダウを治めるハーキム(首長)に選出されて以降、オスマン帝国による占領統治・イギリスによる植民地支配等を経て、現在はサーニー家による世襲制の王朝体制となっています。
カタールの政体は、形式上は立憲君主制をとっているものの、実態としてはサーニー家に政治的権力が集中している状況となっています。
現首長はシャイフ・タミーム・ビン・ハマド・アール=サーニー(2013年より在位)です。
クウェート
クウェートでは、1756年にオスマン帝国の支配下においてザバーハ家による支配が開始し、1961年のイギリスからの独立を経て、以降現在に至るまでザバーハ家による王朝が継続しています。
王位の継承は世襲により行われます。
クウェートの政体は、制度的には立憲君主制であるものの、内閣の要職はザバーハ家により占められており、実態としてはザバーハ家による絶対君主制と相違ない状態となっています。
現首長はサバーハ4世(2006年より在位)です。
サウジアラビア
サウジアラビアでは、1744年にサウード家が勃興して以降、興亡を繰り返したのち、1902年にアブドゥルアズィーズ・イブン・サウードによるナジュド及びハッサ王国の建国により、現在まで続くサウード家による王朝支配が成立しました。
王位の継承は世襲により行われます。
サウジアラビアの政体は絶対君主制であり、また政治の要職はサウード家が独占しているため、サウード家による独裁状態となっています。
現国王はサルマーン・ビン・アブドゥルアズィーズ・アール=サウード(2015年より在位)です。
バーレーン
バーレーンでは、1783年にハーリファ家の首長による支配が開始し、その後イギリスによる保護国化を経た後1971年に独立、以降はハーリファ家による王朝支配が継続しています。
王位の継承は世襲により行われます。
バーレーンは長らく首長による絶対君主制を採用していたものの、湾岸戦争を契機として民主化が進み、2002年には政体を立憲君主制に変更、同時に首長という呼称をやめて国王(マリク)と改めました。国王は依然として三権を掌握する立場にいるものの、実態としては民主的な体制構築がかなり進展しています。
現国王はハマド・ビン・イーサ・アール・ハリーファ(1999年より在位)です。
ヨルダン
ヨルダンでは、1923年以降、ハーシム家による王朝が継続しています。ハーシム家はイスラム教の預言者ムハンマド及び第4代正統カリフ・アリーに連なる系譜の末裔であると主張しています。
王位の継承は世襲により行われます。
ヨルダンの政体は立憲君主制となっており、国王は内閣とともに行政権を執行するものとされています。
現国王はアブドゥッラー2世・ビン・アル=フセイン(1999年より在位)です。
ヨーロッパの王室
イギリス
イギリス王室の存在は世界的に有名であり、最も権威ある王室の一つと言っても過言ではありません。その理由は、かつて産業革命をいち早く経験して一躍派遣国家としての地位を築き、世界各国に保護国・植民地を広げていったという歴史的背景にあります。現在でも、イギリスと同君連合の関係にある国が複数存在することは、かつてのイギリス植民地支配時代の名残と言えるでしょう。同君連合については後述します。
イギリスの現在の王朝は、1917年に始まったウィンザー朝です。
王位の継承は世襲により行われます。
イギリスの国王については、「国王は君臨すれども統治せず」という有名な慣習法があるように、政治的な権能は有しておらず、象徴的・儀礼的な存在として位置づけられています。
現在の国王(女王)はエリザベス2世(1952年より在位)です。2020年現在、エリザベス女王の在位期間は68年間を突破し、存命する君主の中では最高齢かつ最長の在位期間となっています。
オランダ
オランダ王国(ネーデルラント王国)は1814年から1815年にかけて行われたウィーン会議の結果成立しました。その際国王の地位に就いたのがオラニエ=ナッサウ家のウィレム6世で、以降オランダではオラニエ=ナッサウ家の王朝が継続しています。
王位の継承は世襲により行われます。
オランダは立憲君主制の議会制民主主義を採用しており、オランダ国王は、政治に関しては直接的な統治は行わないものとされています。
現国王はウィレム=アレクサンダー(2013年より在位)です。
スウェーデン
スウェーデンでは、1818年に譲位によりジャン=バティスト・ベルナドットが王位を継承して以来、ベルナドッテ王朝(ポンテコルヴォ王朝)が現在まで継続しています。
王位の継承は世襲により行われます。
スウェーデンにおいては、1974年の憲法改正により、国王はすべての政治権力を喪失して、儀礼的国家元首として位置づけられることとなりました。
現国王はカール16世グスタフ(1973年より在位)です。
スペイン
スペインでは、1975年にフアン・カルロス1世の即位による王政復古が行われて以来、ボルボン家を王家とする議会君主制が現在まで継続しています。
王位の継承は世襲により行われます。
スペインにおいては、国王は形式的には国家元首であるものの、あくまでも主権在民を前提とした象徴君主という位置づけであり、政治的権能は有さない儀礼的な存在となっています。
現国王はフェリペ6世(2014年より在位)です。
デンマーク
デンマークでは、1863年にクリスチャン9世の即位により始まったリュクスボー朝が現在まで継続しています。
王位の継承は世襲により行われます。
デンマーク国王は、王国のすべての国務について最高の権限を有するものとされておりますが、一方でデンマークは立憲君主制を採用しており、憲法によって国王の権限の行使には多くの制限がかけられています。そのため国王の権限は、実態としては儀礼的なものにとどまるものと解されています。
現国王(女王)はマルグレーテ2世(1972年より在位)です。
ノルウェー
ノルウェーは、1905年にスウェーデンから分離独立しましたが、その際デンマーク王家からホーコン7世を国王として迎えました。このホーコン7世を始祖とするのがグリュックスブルク王朝であり、現在まで継続しています。
王位の継承は世襲により行われます。
ノルウェーは立憲君主制を採用しており、国王は政治的な権力を有さず、その役割は象徴的・儀礼的なものに限られます。
現国王はハーラル5世(1991年より在位)です。
ベルギー
ベルギーは、1830年にネーデルラント連合王国から独立した際、初代国王としてレオポルド1世が即位し、現在まで世襲により王位の継承が行われています。
ベルギーでは、王家は自らの姓を王家の名前として掲げることをせず、「ベルジック家」(ベルギーの家の意)と称しています。
立憲君主制を採用するベルギーでは、国王は形式的には立法権及び行政権の行使主体であるものの、憲法によってその権力に対して強い制限が加えられていることから、実態としては政治的な実権はなく、象徴的・儀礼的な存在と考えられています。
現国王はフィリップ(2013年より在位)です。
モナコ
モナコ公国では、13世紀ごろからグリマルディ家による支配が一部の断絶期間を除いて現在まで続いています。モナコ元首は「大公」と呼称されます。
大公たる地位の継承は世襲により行われます。
モナコは立憲君主制を採用していますが、大公についても憲法による制限の下で一定の政治的権限が与えられています。
現大公はアルベール2世(2005年より在位)です。
リヒテンシュタイン
リヒテンシュタインの元首は「公」と呼称され、リヒテンシュタイン家が世襲によりその地位を継承しています。1719年に神聖ローマ皇帝カール6世が、リヒテンシュタイン家の買収した地域をリヒテンシュタイン公領とすることを認可したことが、現在まで連なるリヒテンシュタインの起源であり、当時からリヒテンシュタイン家の支配が存続しています。
リヒテンシュタイン家は自国の外にも莫大な資産を保有しており、その資産を源泉として、積極的に文化・芸術の保護を行うことでも知られています。
リヒテンシュタインは絶対君主制を採用しており、公は強い政治的権能を有しますが、一方で高度に議会制民主主義が発展していることから、実態としては立憲君主制に近い政治体制となっています。
現リヒテンシュタイン公はハンス・アダム2世(1989年より在位)ですが、2004年に長男のアロイス公子を摂政に任命して統治権を譲り、現在は名目上の元首となっています。
ルクセンブルク
ルクセンブルクの元首は「大公」と呼称されます。以前はオランダとの同君連合を形成していましたが、1890年にナッサウ=ヴァイルブルク家のアドルフが大公に即位することにより同君連合を解消し、以降現在に至るまでナッサウ=ヴァイルブルク家が世襲によりその地位を継承しています。
ルクセンブルクは立憲君主制を採用していますが、大公は儀礼的な職務を行うのみならず、内閣とともに行政権を執行するものとされています。
現大公はアンリ(2000年より在位)です。
アフリカの王室
エスワティニ
エスワティニは、かつて「スワジランド」と呼称されていた国ですが、2018年の国王による国名変更の宣言を受けて、日本においては2019年に現名称である「エスワティニ」と呼称することとなりました。
エスワティニは1968年にイギリスから独立しましたが、その当初から、ドラミニ家による王朝が現在まで継続しています。
王位の継承は世襲により行われます。
エスワティニは、政体としては立憲君主制を採用していますが、国王は、三権の上に立つ存在として強力な政治的実権を有することが憲法で規定されており、また政府の要職の多くもドラミニ家が占めるなど、実態としては絶対君主制に近いものとなっています。
現国王はムスワティ3世(1986年より在位)です。
モロッコ
モロッコでは、17世紀半ば以降はアラウィー朝による支配が継続していましたが、フランスによる植民地支配を経て、1956年の国家独立以来、現在までアラウィー朝による支配が継続しています。
王位の継承は世襲により行われます。
モロッコは立憲君主制を採用しています。国王は依然として政治的な権能を有していますが、2011年の憲法改正により国王の権限が縮小される等、民主化へと進む流れになっています。
現国王はムハンマド6世(1999年より在位)です。
レソト
レソトでは、セーイソ家による世襲の王朝が現在まで継続しています。セーイソ王朝の起源は1822年のモショエショエ1世の即位まで遡りますが、その後イギリスの保護領を経て1966年に独立し、レソト王国が建国されて現在の体制に至ります。
レソトは立憲君主制を採用しており、国王は象徴的・儀礼的な存在として政治的権力を有しません。
現国王はレツィエ3世(1996年より在位)です。
オセアニアの王室
サモア
サモアの政体をどのように解釈するかは議論があります。サモア憲法の規定上は、国家元首は立法議会による選挙で選出され、また立法議会の被選挙権を有する者については国家元首の被選挙権を有するとされているため、形式的には共和制をとっています。しかし実態としては、国家元首はサモア社会で特別に高い権威を有する4家の大首長から選ばれるのが慣例となっており、これらの大首長はいずれも特定の家系による世襲となっているため、実質的な選挙立憲君主制と解釈することができます。そのため、見方によってはこれらの家系をサモアにおける王室ととらえることもできるでしょう。
このようにして選出された国家元首は名実ともにサモアの長であり、政治的権威と実権を有しています。
現国家元首はトゥイマレアリッイファノ・スアラウヴィ2世(2017年より在位)です。
トンガ
トンガでは、1875年のジョージ・トゥポウ1世の即位以来、ツイ・カノクポル王朝による支配が継続しています。
王位の継承は世襲により行われます。
トンガは立憲君主制をとっていますが、国王は強い政治的権力を保持しています。
現国王はトゥポウ6世(2012年より在位)です。
同君連合について
同君連合とは、複数の君主国の君主が同一人物である状態・体制をいいます。現在における同君連合は英連邦王国の例にみられます。
英連邦王国の構成国は以下の16か国です(2020年3月現在)。
- アンティグア・バーブーダ
- オーストラリア
- バハマ
- バルバドス
- ベリーズ
- カナダ
- グレナダ
- ジャマイカ
- ニュージーランド
- パプアニューギニア
- セントクリストファー・ネイビス
- セントルシア
- セントビンセント・グレナディーン
- ソロモン諸島
- ツバル
- グレートブリテン及び北アイルランド連合王国(イギリス)
これらの国々は、いずれもかつてはイギリスの支配下にあり、その後独立国となったものの、現在に至るまでイギリス国王を自国の国王と定めています。
英連邦王国の構成国においては、形式上は国王主権とされているものの、イギリス本国と同様に、「国王は君臨すれども統治せず」の原則が貫かれており、実際には現地の機関によって三権の行使が行われます。
現在では、イギリス本国と他の英連邦王国を構成する国との関係性は対等であり、イギリス又はイギリス国王が他国に対して権力を行使するということはなくなっていますが、依然として権威による緩やかな連合を保っている状態と言えるでしょう。
なお、英連邦王国のように、各構成国がそれぞれ独立した主権を保持するものを人的同君連合といいますが、各構成国の上に中央政府が設置され、一元的に各構成国を統治するシステムも歴史的には存在し、このようなシステムは物的同君連合といいます。
まとめ
以上に見てきたように、王室がある国は各地に存在しますが、その起源、王位の継承方法、政治的権力の有無等は、各国に特徴があり様々です。
それぞれの国の王室の成り立ちや仕組みを比較してみて、それぞれの国の歴史や繋がりに考えを巡らせてみてはいかがでしょうか。