足と先を組み合わせると「跣」という漢字になります。
読み方が難しい漢字ですね。
本稿では、「跣」の読み方や意味、成り立ち、豆知識などをご紹介します。
「跣」の基本情報
まず、「跣」の基本情報から確認していきましょう。
漢字 | 跣 |
---|---|
部首 | 足(あしへん) |
音読み | セン |
訓読み | はだし・すあし |
訓読みを見ればわかる通り、「跣」は「裸足(はだし)」を意味する漢字です。
説文は「跣」を「足、地に親(つ)くなり」と説明しています。
つまり、靴などの履物を介することなく地面と足が直接触れている状態を意味しており、これを「徒跣(とせん)」ともいいます。
「跣」と礼儀作法
「地面と足が直接触れていること」を深く知ると、中国古来の礼儀作法が理解しやすくなります。
礼儀作法が分かれば中国の文化も分かりやすくなります。
「礼儀三百、威儀三千」ともいわれるように、中国では古来より礼儀作法を非常に重んじてきました。
四書五経をみても、それぞれの古典は礼儀抜きには成り立ちませんし、五経の一つである『礼記(らいき)』も礼儀を教えるための経典です。
礼記に見る「跣」
礼記の内則篇では、成年男子の礼儀作法として以下のように教えています。
鶏初めて鳴きて、咸(みな)盥(あら)ひ、漱(すす)ぎ、櫛(くしけづ)り、縰(かみつつみ)し、笄(かんざし)し、総(もとゆひ)し、髦(ぼう)を払ひ、冠(かんむり)し、纓(えい)を緌(むすびた)れ、端(たん)し、韠(ひざかけ)し、紳(しん)し、笏(こつ)を搢(さ)し、左右に用を佩(お)び、偪(むかばき)し、履(くつ)し、綦(き)を著(つ)く。
朝、一番鶏が鳴いたら起床し、手を洗い、口をすすぎ、髪を櫛でとかして髪を縰(髪の毛をつつむ絹)でつつみ、かんざしを挿す。髪の毛の元を総で束ね、余りは後ろに垂らしておく。髪の毛の塵をはらって冠をかぶり、冠のひも(纓)はあごの下で結んで下に垂らしておく。玄端(士以上の身分の者の正装)を着て、膝をおおう韠をしばり、大帯である紳を締める。紳に笏をさし、諸道具を帯につける。
これらが終わったら偪(足先から膝までを包むもの)をつけ、最後に履をはき綦(ひも)を締める。
礼儀では身だしなみを重んじますが、中国の礼儀では特に細かく決められています。
そして、身だしなみは「靴をはき、くつひもを締める」で完了します。
「跣」であることは礼儀作法の締めくくりを欠くことと同じであり、忌み嫌われることなのです。
捕虜と徒跣
礼儀はそれぞれの立場、地位によって決められています。
君主には君主の礼儀、大臣には大臣の礼儀、武将には武将の礼儀、庶民には庶民の礼儀があります。
逆に言えば、立場を失った人は礼儀を守る必要がなく、むしろ立場を失っているからこそ礼儀を守ることが許されないこともあります。
顕著な例は捕虜や罪人です。
古代中国では、戦争に負けて降伏した人は「被髪徒跣(ひはつとせん)」して罪を請うものと決められていました。
降伏した人はかつての立場を失っており、立場といえばただ「罪を請う立場」でしかなく、通常の礼儀を守ることは許されません。
そのため、捕虜や罪人は髪の毛を整えず(被髪)、はだし(徒跣)で罪に服する定めであったのです。
このように、礼儀の観点から見ることによって、「跣」の漢字が持つイメージがよくわかると思います。
中華ドラマ「スリーキングダム」における「跣」
日本でも話題になった中華ドラマ「スリーキングダムズ」では、魏の曹操が有能な人材を迎える際に「跣」で迎えるシーンがあります。
この意味が、皆さんにはもうお分かりでしょう。
欲しかった人材が自分に仕えたことで、曹操は君主としての礼儀作法を忘れるほどに喜び、靴もはかずに跣で飛び出した、というわけです。
また、儒教に否定的であり、礼儀などもあまり重んじなかった曹操の性格をよく表す描写でもあります。
まとめ
本稿では、「跣」を中国古代の礼儀作法から解説してきました。
「跣」ということが礼儀的にどのような意味を持っているのかを知れば、漢字の本来の意味や文化とのかかわりが見え、ドラマの見方なども変わり、大変面白いものです。
漢字を学ぶ際には、漢字だけではなく広く関連付けながら学んでほしいと思います。