きへんに山で「杣」という漢字になります。
とても簡単な漢字ですが、あなたは正しい読み・意味を知っているでしょうか。
本稿では、簡単であるもののあまり知られていない「杣」を解説していきます。
「杣」の解説
「杣」の基本情報は、以下の通りです。
漢字 | 杣 |
---|---|
部首 | 木(きへん) |
音読み | |
訓読み | そま |
上記の通り、「杣」は「そま」と読みます。
「杣」は木材伐採用の山
「そま」と聞いてもピンと来ない人が多いと思います。
それもそのはず、「杣」は主に古代から中世にかけて使われていた言葉なのです。
当時、都の造営や神社仏閣建立に伴い、木材を大量に調達するための山が指定されました。
この山のことを「杣山(そまやま)」といい、杣山から伐り出された木材を「杣木(そまぎ)」、杣山で働く人を「杣人(そまびと)」「杣樵(そまきこり)」などといいます。
明治以降、各地の「杣」は森林法によって管理されるようになり、杣で林業を営んでいた組織も森林組合へと移行していったため、「杣」という言葉は使われなくなりました。
杣は国字
漢字は中国で生れた文字であり、日本にも中国の漢字が入ってきました。
しかし、日本で生まれた漢字である「国字」もたくさんあります。
「杣」も国字のひとつです。
日本の歴史を背景として生れた山を意味する漢字ですから、国字であることにも納得がいくでしょう。
杣人の情報で伊豆を攻略した早雲
国字である「杣」は、当然ながら中国古典には出てきません。
もちろん、日本の古典にはしばしば登場します。
古典といっても幕末の著作ですが、『名将言行録』という本があります。
戦国時代から江戸時代中期にかけての武将や大名の言行をまとめた本ですが、北条早雲のくだりに「杣」が出ています。
北条早雲が伊豆の攻略を目論んでいたとき、伊豆の杣人から情報を聞き取る様子が以下のように書かれています。
“療治の為め、且つは弘法大師の霊跡を巡礼せばや、とて伊豆の修禅寺の温泉に浴し、逗留中徒然を慰めんが為めに、杣樵を呼び入れて、思々の物語させ、終に伊豆四郡の険易広狭を始め、一郡に十人、二十人の侍の分限まで、残る所なく聞き済まし…”
(北条早雲は、療養のため、また弘法大使ゆかりの地を巡礼するためと偽って、伊豆・修禅寺の温泉に行った。滞在中、暇つぶしに見せかけて杣人を呼んで話し相手をさせた。そうするうちに、伊豆全域の地理や支配者のことをすべて聞き取った)
この記述から、
・杣山で働いていた杣人が地理に明るかったこと(→当時、開けた土地はごく一部であり、国土の大半は森林であった。杣人の活動範囲は広く、伊豆全域の地理に精通していた)
・杣人が権力者と近しい存在であったこと(→伊豆全域の支配者の情報を全て提供できるほど、杣と権力者が密接な関係にあった)
などが分かり、「杣」のイメージが具体化することと思います。
まとめ
難読漢字を楽しむポイントのひとつは、古典を紐解きながら味わっていくことです。
「杣」も、北条早雲の逸話を読みながら学ぶと、当時の「杣」がどのような存在であったかを知ることができます。
今やほとんど使われなくなった漢字ほど、使われていた頃の時代背景と共に学ぶことを意識してみてください。