「赤」という漢字は誰でも知っていますが、「赫」はどうでしょうか。
日常的に使うことは少なく、多くの人にとってなじみがない漢字だと思います。
しかし、「赫」は漢詩などを読んでいるとしばしば登場する漢字であるため、「赫」を知っておくと表現も豊かになります。
「赫」の解説
「赫」の基本情報は、以下の通りです。
漢字 | 赫 |
---|---|
部首 | 赤(あかへん) |
音読み | セキ・カク |
訓読み | あかい |
「赫」の部首は「赤(あかへん)」です。
「赤」と同じように赤い色を意味するほか、そこから連想されるいくつかの意味を持ちます。
「赫」の基本的な意味は、成り立ちを考えると良く分かります。
「赫」の成り立ち
「赫」は、「赤」を二つ並べた漢字です。
そもそも、構成要素である「赤」は「火のあかりを浴びている人の姿」の象形文字です。
この意味が発展して「赤」を「火のような色=赤色」の意味で用いるようになりました。
火の色を意味する「赤」を二つ並べた「赫」は、「赤」が持つ火のイメージや明るさ、赤色の程度を二つ重ねたものです。
したがって、「赫」は単に「火があって明るい・赤い」というよりも、「火が燃え盛っていてとても明るい・赤い」ことを意味します。
また、「明るい」が発展して「輝く」を意味する場合もあります。
「赫」の意味を用例から知る
冒頭で述べた通り、「赫」は漢詩でよく使われる漢字です。
一字で「赤い」「明るい」などを意味するため、漢詩を作る際に便利なのです。
例えば、四書五経の一つである「詩経」には、「赫」がしばしば登場します。
「赤い」の実例
詩経の国風篇にある「簡兮(かんけい)」という歌の一説には、「赫」が「赤い」の意味で使われています。
赫如渥赭 赫(かく)として渥赭(あくしゃ)のごとし
(赭[赤の顔料]を厚く塗ったように、顔色がとても赤い)
「輝く」の実例
詩経では、「輝く」の意味でも用いられています。
同じく国風篇の「淇奥(きいく)」という歌では、以下のように用いられています。
赫兮咺兮 赫(かく)たり咺(けん)たり
(輝くような優れた徳を持っていて、威風がある)
特に「輝く」の意味を強調する場合には、「輝赫(きかく)」とも表現します。
赤い・明るいだけではない「赫」
ここまでに述べた以外に、「赫」にはいくつかの意味があります。
比較的よくみられるのが、怒っている様子を意味する「赫」です。
激しく起こっている様子を「烈火(れっか)のごとく怒る」などといいますが、「赫」はこれに近いニュアンスです。
「烈火」とは「激しく燃えさかる火」であり、「赫」も赤+赤(火+火)で「激しく燃えさかる火」を意味します。
「赫」は詩経の大雅篇にも、
王赫斯怒 王、赫としてここに怒る
(そこで、王は激しく怒った)
とあります。
ちなみに、激しく怒る意味の「赫怒(かくど)」はこの「王赫斯怒」からできた熟語です。
まとめ
漢字の中には、漢詩を通して知ることで意味がよくわかるものがたくさんあります。
「赫」もその一つで、この漢字を知っておくだけで「赤い」「明るい」「輝く」などの情景を豊かに表現できるようになります。
以前、筆者がヒマラヤを歩いた際、険しい山脈と朝陽のセットを眺めていたら、ふとこんな句が浮かんできました。
山滌余靄 山は余靄(よあい)に滌(あら)はれ
輝輝赫赫 輝輝赫赫(ききかくかく)たり
(山にうっすらとかかっていた靄が晴れて山が見えた。朝陽に照らされる山は、靄に洗われたためか、まぶしいくらいに輝いていた)
「赫」を知っていたことで、この素晴らしい風景を味わい尽くすことができました。
漢字を学ぶ楽しみは、日常のふとした瞬間に感じることも多いものです。
ぜひ、楽しみながら漢字を学んでほしいと思います。